現在わが国におけるAIを取り巻く状況は厳しい。日本のAI産業応用は、米国や中国と比較するといくつかの点で優位性と独自性を持っているものの、全体的な競争力では劣勢にあるのが現状だ。
先月12日の日経クロステックで、日本の「AI国力」がわずか2年で世界4位から9位に転落、韓国やアラブ首長国連邦(UAE)に追い抜かれたことがスタンフォード大学の調査で明らかになったと報じられた。UAEは国家主導でAI大学を設立し、人材育成と研究開発を加速。韓国はAI半導体や基盤モデル開発に巨額投資を行い、産業界との連携も強化している一方、日本は政策の一貫性やスピードに欠け、AIスタートアップ支援やデータ活用環境の整備も遅れている上、産学官の連携不足や人材流出も課題で、国際競争力が低下しているというものだ。
確かに、韓国やUAEは国家主導でAI研究を集中投資しているのに対し、日本は資金配分が分散し、研究スピードの遅さが際立つ。また、AIに限らず日本のスタートアップ企業およびユニコーン企業数の割合は他国に比べて極端に少ない。日本企業の自前主義、規制の厳しさや失敗を許容しない文化が障壁となっていると考えられるが、それに伴って、若手研究者の海外流出や博士課程進学率の低さなどが深刻な状況になっていることも一因として挙げられる。日本のそうした企業や国民による「様子見」姿勢が、AIの導入を妨げ、結果としてAI国力の低下を招いているのではないだろうか。
では今後、日本のAI国力を高めるためにはどうすれば良いのだろうか。
一つは、「現場適合型AI」の強化である。製造・建設・インフラ・医療・介護など、日本が得意とする分野に特化した軽量・高精度・高信頼AIの開発実装による差別化を推し進めること。特にスーパーコンピュータや制御技術を活用したAIハードウェア・データセンター分野での国際競争力を強化することである。
もう一つは、挑戦を許容する文化を醸成することで、AI人材育成とリスキリングを加速させることである。特に、若手・社会人向けのAI教育プログラム拡充と待遇改善を強化しなければならない。若手や外国人が失敗を恐れることなく自由に挑戦し、活躍できる、そして何度でもやり直せる環境づくりは、今やAI国力のみならず、わが国の持続的成長にとっても欠かせない視点であると言えるだろう。(974字)
【参考資料】
・『日本の「AI国力」がわずか2年で4位から9位に転落、韓国やUAEに抜かれた要因』中田敦/日経クロステック(25/9/12掲載)https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/03079/091100019/
・『AI世界競争の中での日本の立ち位置と課題・可能性とは?』ノーコード総合研究所(25/4/3掲載)https://nocoderi.co.jp/2025/04/03/page/5/
