ロボットに税金をかけるべきか

1. 問いと立場

問いは「ロボットに税金をかけるべきか」。私は反対の立場です。理由は、①日本では人手不足が深刻で、ロボット導入がむしろ必要だから、②課税は投資意欲を下げるおそれがあるから、③すでに企業は固定資産税などで一定の負担をしているから、の3点です。

2. ことばの意味と対象

ここでいう「ロボット」は、工場の産業用ロボットだけでなく、AIやセンサーを使って自動で判断・作業を行う機械や設備、ソフトウェアもふくみます。課税の対象を「ロボットそのもの」や「導入費用」とすると、すでにある固定資産税や法人税と重なります。したがって「ロボット課税」を新たに設けると、投資や生産性向上をさまたげるおそれがあります。

3. 論点の整理

・雇用と給料:ロボット導入で一部の仕事は減るが、同時に新しい仕事も生まれます。日本のように人手が足りない社会では、置きかえよりも「補い」の効果が強いと考えられます。
・税の公平さ:人件費には社会保険料がかかり、機械投資は優遇されやすいという指摘はあります。ただし、その調整は「ロボット税」よりも全体の税制見直しで対応すべきです。
・生産性と成長:自動化は品質向上やコスト削減をもたらし、企業の競争力を高めます。課税はこうした動きをにぶらせるリスクがあります。
・財政と分配:ロボット課税を導入しても、税収は限定的です。それよりも、生産性向上による所得税や法人税の増収効果が見込まれます。
・実務面:「ロボットがどれだけもうけを生んだか」を正確に測るのは難しく、運用が複雑になります。

4. かんたんな数値例

ある物流会社が1億円で自動仕分けロボットを導入し、人件費が年1,500万円減少、生産効率が10%向上して利益が年2,000万円増えたとします。課税なしでは5年で回収可能です。もし「ロボット利益税」を2%課すと年間40万円の負担で、回収は約5.2年にのびます。投資意欲はそれほど下がらないように見えても、複数拠点をもつ企業では合計負担が重くなり、更新投資が遅れるおそれがあります。

5. 反対意見とその答え

・「課税しないと雇用が失われる」:日本ではすでに人手不足で、ロボットは雇用の代わりではなく補助です。人の仕事を助ける方向で共存が進んでいます。
・「公平性のために課税すべき」:その問題は社会保険料や法人税の制度で調整すべきで、特定の技術にだけ課税するのは中立性を欠きます。
・「先進企業だけが得をする」:導入効果で増えた利益にはすでに法人税がかかっています。二重課税の心配があります。

6. 政策の候補と私の提案

・案A(中立課税):ロボット課税は導入せず、法人税ベースを広げて全体の公平性を高める。
・案B(支援型):自動化投資を促進する補助金や減税を活用し、代わりに労働者の再教育や転職支援に公的資金を重点配分する。
・案C(組合せ):導入初期には減税、成熟段階では通常課税とする「調整ルール」を設ける。
私の提案は案Bです。①ロボット導入で得られる生産性向上分を社会全体に広げる、②税金は再教育・地域支援に使う、③企業には投資の自由度を残す。この形なら「課税」よりも前向きな再分配になります。

7. まとめ

ロボット課税は一見公平に見えても、今の日本の人手不足の中では経済全体にマイナスの影響を与えるおそれがあります。むしろ、ロボット活用で得られた利益を社会全体で生かすための「教育と支援」政策こそ必要です。よって私は、ロボット課税には反対し、再分配強化を通じて公正をはかるべきだと考えます。

参考文献

経済産業省(2019)『ロボット政策研究会報告書』

International Federation of Robotics(2022)The Impact of Robots on Productivity, Employment and Jobs.

Acemoglu, D. and Restrepo, P.(2020)“Robots and Jobs: Evidence from US Labor Markets,” Journal of Political Economy.

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