ロボットに課税すべきか

1.問いと立場

 本稿の問いは「ロボットに課税すべきか」である。私は条件付き賛成の立場を取る。理由は以下の通りだ。第一に、自動化の進展で失われる雇用への支援財源が必要であること。第二に、ロボット所有者と労働者間の格差是正が求められること。ただし、過度な課税は技術革新を阻害するため、慎重な設計が不可欠である。

2. 用語の定義と課税対象

 ここで言う「ロボット」とは、AIを搭載した自律型システムや産業用ロボットなど、人間の労働を代替する自動化技術全体を指す。単なる機械ではなく、高度な判断が可能なシステムを含む。

 課税対象としては、ロボットの導入台数や使用時間ではなく、それが生み出す付加価値に焦点を当てるべきだと考える。既存の固定資産税や法人税との二重課税を避け、新たな税体系として設計する必要がある。

3. 主要論点の整理

· 雇用への影響: 短期的には物流や製造業で雇用減少が懸念されるが、長期的には新産業が生まれる可能性
· 税収問題: 企業の利益が増えても、従業員の減少で所得税や社会保険料が減る「税収空白」が生じる
· 公平性: ロボット所有者に富が集中し、格差が拡大するリスク
· 技術革新: 過度な課税は日本の競争力を低下させる恐れ
· 実施の難しさ: 何を「ロボット」と定義するか、どう測定するかという問題

4. 簡易モデル/事例

 自動車工場を例に考えよう。ロボット導入により、人件費が20%削減され、生産性が10%向上したとする。この時、ロボット課税がなければ企業の利益は大幅に増加するが、失われた雇用への支援財源は不足する。一方、課税しすぎると、企業はロボット投資を控え、生産性向上の機会を逃す。

 実際、SOMPO社のレポートでは、保険業界でもAIによる業務自動化が進んでおり、これに対応した税制の検討が始まっている。

5. 反対意見・限界の検討

 反対意見として主に三つ挙げられる。第一に「技術革新の阻害」については、税率を低く設定し、研究開発は控除対象とするなどで対応できる。第二の「測定の困難さ」については、ロボットの種類や能力ではなく、それが生み出す収益に課税する方式で解決を図れる。第三の「企業の海外移転」リスクについては、国際的な協調を求めつつ、日本の技術力を活かした付加価値の高い生産体制を構築すべきである。

6. 政策オプションと私案

 私は以下の三段階アプローチを提案する。

 第一に、「ロボット利用税」 を導入するが、税率は最初の5年間は0.5%とし、様子を見ながら段階的に引き上げる。

 第二に、税収は「職業転換支援基金」 として、AI時代に必要なスキルを学び直す人への教育訓練に充てる。

 第三に、中小企業がロボットを導入する際は、最初の3年間は課税を免除し、技術普及を促進する。

 このように、技術革新を促進しつつ、その影響を受ける人々を支援するバランスの取れた政策が理想である。

7. 結論

 ロボット課税には賛成だが、それは技術の進歩を止めるためではなく、その恩恵を社会全体で分かち合うための手段である。適切に設計されたロボット課税は、技術革新と人間の福祉の両立を可能にする。私たちは、人間らしい働き方と技術進化が調和する社会の構築を目指すべきだろう。

参考文献

内閣府・政府税制調査会「デジタル経済への課税に関する論点整理」(2022)

SOMPOリスクマネジメント「ロボット税の動向と企業への影響」(2022)

渡辺徹也(2024)「生成AIと課税―ロボット課税からAI利用へ―」『フィナンシャル・レビュー』第157号、財務省財務総合政策研究所.

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