中国では、AIが国家戦略の核心として位置付けられ、「新一代人工知能開発計画」などの政策のもとで、技術開発と産業応用を急速に拡大している。AIを製造、エネルギー、医療、金融など多岐にわたる分野に導入し、経済のデジタル化と新産業の育成を進めることで、世界的な競争に参入している。しかし、その急速な発展の裏では、データの品質・共有性の不足、開放性などの弱さといった課題も指摘される。
上海交通大学の『人工智能+”行业发展蓝皮书』(2025年)は、中国のAI産業が国家主導の下で急速に発展する一方、構造的課題を抱える理由を示している。中国では政府がAIを「国家競争力の中核」と位置づけ、資金・データ・政策を集中投下することで大規模モデルの開発や社会実装を短期間で実現した。しかし、研究資源が政府主導で分配されるため、基礎理論研究や独創的な発想が育ちにくいという課題がある。また、データ利用や研究環境が政治的規制に依存しており、国際的なオープンデータ共有や学術交流が制限されることも、技術革新の柔軟性を損ねている。
これに対し、MERICS報告書(2025年7月)によると、アメリカはOpenAIやGoogleなどの民間企業が主導し、自由競争と大学・研究機関との連携によって技術革新を推進している。また、米スタンフォード大学の「人間中心のAI研究所(HAI)」が発表した『2025 AI インデックスレポート』によると、アメリカと両国の民間投資額では依然として大きな差があり、2024年時点では、米国が約1,091億ドル、中国が約93億ドルにとどまっていると報告されている。アメリカ政府は「AI Bill of Rights」などの枠組みを通じて倫理と透明性を重視し、研究の多様性と開放性が高く、過度な規制を避けつつ自律的な発展を支援している。
以上のことから、中国のAI産業は国家主導で急速に発展しているが、その発展は国際的な開放性や倫理ガバナンスの整備などが追いついていない点が課題である。今後、中国が持続的な技術革新を実現するためには、政府の主導力を保ちつつ、基礎研究や国際連携を促進する柔軟な制度設計が求められる。
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参考文献:
上海交通大学行研院(2025)『“人工智能+”行业发展蓝皮书(Artificial Intelligence + Industry Development Blue Book)』
Wendy Chang, Rebecca Arcesati, and Antonia Hmaidi. China’s Drive Toward Self-Reliance in Artificial Intelligence: From Chips to Large Language Models. MERICS Report, Mercator Institute for China Studies (MERICS), July 2025.
Stanford University Human-Centered Artificial Intelligence (HAI). (2025). AI Index Report 2025. Stanford University.
