はじめに
「ロボットに課税する」と聞くと、SF映画のような未来を想像するかもしれません。しかし、今、世界中でこのテーマが真剣に議論されている。目の前に見えない工場で働く産業用ロボットや生活の回りにスーパーのセルフレジのが、これまで人間が行ってきた仕事を代わりに行うことが増えてきた。このような状況の中で、「ロボットに税金をかけるべきではないか?」という問題が出てきている。このエッセイでは、ロボット税とは何か、それを導入すると社会にどのような影響があるのか、そしてただいまの解決策があるのかを、高校生のみなさんにもわかりやすく説明する。
ロボット税とは何か?
ロボット税とは、その名前の通り、ロボットに対して課される税金のことだ。しかし、ロボットそのものに税金がかかるわけではない。正確に言うと、AI・ロボットにより労働者が代替されると、今まで労働者が払ってきた所得税が減少するため、労働者が払う筈であった所得税をAI・ロボットに代わって払ってもらおうという考えである[1]。
例えば、ある自動車工場で、これまで100人で行っていた溶接の仕事を、10台のロボットに置き換えたとする。その結果、会社は人件費が大幅に削減され、多くの利益を得る。ロボット税は、このようにして生まれた余分な利益の一部を税金として納めさせ、それを社会のために使おうというアイデアなのだ。
AI・ロボットの何にいくら課税するか?
AI・ロボットの何にいくら課税するのか、という議論もなされていない。例えば、AI・ロボット1台が生み出す付加価値は一体どうやって計算するのか、例えば自動車の生産ラインでは溶接ロボットと人間が一体的に働いているが、そのうちロボット1台が生み出す付加価値を一体どうやって計算するのかといった議論もなされていない。ロボット税は、まだその程度のレベルでしかない。
なぜ、そんなことが必要なのでしょうか?
主な理由は2つある。
1.失業問題への対応:
ロボットが仕事を奪うことで、短期的に多くの人が職を失い、給与に関する税収(社会保障負担に関する支援を含む)。ロボット税でお金を集め、そのお金で失業した人の生活を支えたり、人間とロボットの間に平等な土俵を作ることが目的としている。
2. 税収の減少を防ぐ:企業が従業員を減らせば、国は所得税(給料から引かれる税金)や社会保険料の収入が減ってしまいます。ロボット税は、この減ってしまった税収の穴埋めとして機能する。
ロボット税を導入するメリットとデメリット
ロボット税には良い点と悪い点の両方があります。
メリット(良い点)
1.社会保障の財源を確保できる:ロボットによって仕事を失った人々への支援(ベーシックインカムや職業訓練)に税金を充てることができる。
2.技術の進歩のスピードを調整できる:急速な自動化が社会に与える衝撃を和らげ、人々が新しい時代に適応する時間を作れるかもしれません。
3.公平性の確保:人間が働いて税金を納めているのに、ロボットを使う企業だけが税金を免れるのは不公平だ、という両方の公平を維持する考え方である。
デメリット(悪い点)
1、技術革新の妨げになる:ロボット税は、企業にとっては新しい技術を導入するコストになる。そのため、「せっかく効率化できる技術があるのに、税金がかかるなら導入をやめよう」という企業が出てきて、社会全体の技術の進歩が遅れてしまう可能性がある。
2、国際競争力の低下:もし日本だけがロボット税を導入すると、日本の企業は海外の企業に比べてコストが高くなり、競争で負けてしまうかもしれません。
3、「ロボット」の定義が難しい:スマートフォンの音声アシスタントや、自動運転のソフトウェアはロボットと言えるでしょうか? どこまでを「課税対象のロボット」とするのか、線引きが非常に難しくなる。
これまで肉体労働者が機械に代替されてきた歴史では、ロボットの導入を促進する税制を導入し、その普及を加速してきた。ところが、人間の頭脳労働を代替するAIが出現した途端、政策の180度転換を主張する人が出現してきたということである。そのくらい、一部の人にとっては、肉体労働を機械に代替することと、頭脳労働を機械に代替することとの間には、大きな違いがあるということだろう。[1]
ロボット税以外の解決策は?
ロボット税には大きな課題があるため、別の方法を考えることも重要です。ここでは2つの代替案を紹介します。
1. 教育と職業訓練の充実
これは最もポジティブな解決策の一つです。ロボットに奪われにくい仕事、例えば、クリエイティブな仕事(デザインや音楽)、高度な専門知識が求められる仕事(エンジニアや研究者)、人と人とのコミュニケーションが中心の仕事(介護や教育)などに必要なスキルを、学生のうちから、あるいは社会人になっても学び続けられる環境を整えるのです。国や企業がお金と時間を投資して、人々が未来の仕事に適応できるように支援する。
2. 新しい税金の形を考える
ロボットそのものに税金をかけるのではなく、企業が得た「巨額の利益」全体に対して、より公平な課税を行うという方法もある。また、データを利用してビジネスを行う巨大IT企業(GAFAなど)に対して、そのデータ利用に応じた「デジタル課税」を導入する動きも世界的に広がっている。これは、ロボット税と目指すところが似ている。
おわりに:私たちの未来をどうする?
ロボットやAIが私たちの生活に入り込んでくるのは、もはや避けられない流れです。ロボット税は、その変化によって生まれる問題を解決するための「対症療法」として注目されている。しかし、それは技術の進歩にブレーキをかけるリスクもはらんでいる。
本当に大切なのは、「ロボットに課税するか、しないか」という単純な問いではなく、技術の進歩の恩恵を社会全体でどう分かち合い、誰もが幸せに暮らせる未来をどうデザインするかということではないでしょうか。そのための手段として、ロボット税を議論のきっかけにしつつ、教育の充実や税制度の抜本的な見直しなど、より幅広い視点で考えることが、高校生であるみなさんを含む、これからの社会を担う世代に求められている。
参考文献
- 第124回「AI・ロボット税は経済の救世者か、それとも破壊者か?」岩本 晃一 2020年12月11日
- 生成 AI と課税―ロボット課税から AI 利用へ― 渡辺 徹也 2024 年2月1日
