日本のAI国力:現状と課題のまとめ

1. 現状認識:高い潜在力と顕在化する遅れ

強み(潜在力):

ものづくり基盤:高い製造技術と、実世界(実空間)に強みを持つ産業基盤(ロボット、自動車など)がある。

研究開発人材:研究者の数は世界第3位であり、平均年齢が米国より若い(約40歳)。長期の基礎研究と細やかな改良(すり合わせ技術)に強みがある。

未活用のデータ資産:研究ノートや製造現場のクローズドデータなど、汎用AIが学習していない貴重な「サイエンスデータ」を大量に保有している。

弱み(遅れと課題):

企業投資と戦略の遅れ:ChatGPTに代表される生成AIや基盤モデルの開発競争で、米中に大きく後れを取っている。特に「攻めの投資」が不足。

IT/AI人材の不足:AIを開発・活用できる高度人材が不足している。教育と採用が遅れており、OECD調査でも「ITを活用した問題解決能力」は10位と低迷。

業務プロセス革新の遅れ:AI化が「業務の置き換え」に留まり、業務プロセスそのものを変革する「革新」段階に至っていない。

研究力の低下:論文数は停滞・減少し、論文の影響力を示す「相対インパクト」は31位まで低下。大学教員の研究時間も減少している。

2. 核心的な課題

「情報空間」での競争敗退:第四次産業革命は「情報空間」から「実空間」へ進出する。しかし、あらゆる企業がIT企業化する中で、IT化が不得手な日本企業は不利な立場にある。

「頭脳資本主義」への適応不足:現代は労働者数ではなく、「頭脳」のレベルが競争力を決める。世界的な頭脳の奪い合いの中で、日本は優秀な人材を惹きつけ、育成する仕組みが脆弱である。

エネルギー制約:生成AIの進化には膨大なエネルギーが必要。データセンターの電力需要増大に対応する、効率的なエネルギー利用技術(人工光合成、核融合等)の開発が急務。

3. 提言される成長戦略と回復への道筋

独自LLMとデータプラットフォームの構築:日本が強みを持つ「サイエンスデータ」や製造現場データを活用した、偏りのない専門的な大規模言語モデルを構築する。計測機器メーカー等と連携し、研究データを共有するプラットフォームを確立し、新たなビジネス基盤とする。

コンソーシアムによる突破:量子技術など巨額投資が求められる分野では、単独では太刀打ちできないため、企業や研究機関がコンソーシアムを組み、官民一体で技術開発と標準化を目指す。

人材戦略の大転換:

教育の転換:知識の暗記から、問題発見・解決能力、創造性を育成する教育へ。リベラル・アーツとSTEM教育の両輪が重要。

高度人材の獲得:シリコンバレーなど世界のトップ人材を日本に招致したり、交流させたりすることで、キャッチアップと独自性の創出を図る。「真の働き方改革」:無駄な会議や雑務を削減し、人材がクリエイティブな業務に特化できる環境を整える。

俯瞰的・客観的な長期戦略の策定:AI、量子、核融合など複数の技術の進展を俯瞰的に分析し、様々な未来シナリオを想定した上で、柔軟に調整可能な長期戦略を立てる。

総括

日本のAI国力は、高い潜在力(製造力、研究人材、データ)を十分に活かし切れていない状態にあります。ChatGPT登場後のランキング急落は、この「潜在力と現実のギャップ」を象徴しています。

回復のカギは、「ものづくり」の強みを「情報空間」での競争力にどう結びつけるかにあります。そのためには、自らの強みを活かした独自LLMの構築、世界に開かれた人材戦略、そして技術の潮流を読む俯瞰的な視点が不可欠です。これらを実現できたとき、日本はAI時代において「技術の消費者」から「価値の創出者」へと再び躍進できる可能性があります。

参考文献

1、俯瞰的にみたAIの進化と日本の国際競争力 ー日本企業にAIに飲み込間れるのか? 中村達生 Japlo Year Book 2025 https://japio.or.jp/00yearbook/files/2025book/25_3_06.pdf

2、AI時代に日本は逆転できるか?-競争力強化と教育改革 井上智洋 https://www.soumu.go.jp/main_content/000520386.pdf

「AI国力」について

1. はじめに

中国のAI国力は、この数年で大きく成長してきた。政府は「人工智能発展規画」などを通じてAIを国家戦略産業として推進し、企業もインターネット、医療、物流、製造など幅広い分野でAIの社会実装を加速させている。一方で、基盤モデルの開発競争、半導体制裁、国際ルールへの対応など、課題も少なくない。以下では、参考資料を要約し、それを踏まえて中国のAI国力について考察する。


2. 参考資料の要約

人民日報(2024年12月18日)「中国AI産業、核心技術で新たな突破」では、中国のAI産業が規模拡大を続け、2023年時点でAI関連企業数は4,500社を超えたと紹介されている。記事は、中国が大規模言語モデル(LLM)や自動運転、スマート製造で実装が進んでいる点を強調し、特に「応用で先行・基盤で追走」という構図を示している。また、政府と企業の共同投資が増え、AI教育や人材育成政策も進められていると報じている。


3. 参考資料の要約

日経中文网(2024年9月25日)「中国AI、基盤技術で米国との格差依然」では、中国AIの強みを認めつつも、最先端半導体(特にGPU)へのアクセス制限や国際ルールの不確実性を課題として挙げている。基盤モデルの性能評価では依然として米国勢が優勢であり、研究論文の影響力でも差が残るという指摘がなされている。


4. 自分の考察

2つの資料を比較すると、中国のAI国力は「応用分野での強さ」と「基盤技術での制約」という二面性を持つことがわかる。実際、中国ではEC、金融、医療画像診断、物流最適化など多くの分野でAIが広く利用されており、社会実装のスピードは世界的にも高い。一方、GPUの供給制限やチップの国産化の遅れは、中国AIの長期的な競争力を左右する深刻な問題である。

しかし、応用力の強さは中国の重要な武器である。ユーザー規模が巨大で、アプリ実装と市場検証を高速に回す「実験的生態系」が存在することは、他国にはない優位性だ。また、政府がAI教育・研究に大規模投資を続け、地方レベルでもAI産業クラスターが整備されている点も、中国のAI国力を押し上げている。

その反面、国際協調や透明性の確保、安全性評価などの「ソフト面の国力」を強化しなければ、AIの国際標準化において発言力を高めることは難しいと考える。基盤チップ開発の自立化と国際ルール形成への積極的な参加が、今後の課題である。


5. 結論

中国のAI国力は、社会実装のスピードと市場規模に強みを持ちながらも、基盤技術と国際ルール対応に課題を抱える「強さと弱さの共存した段階」にある。今後は、①半導体と基盤モデルの自立化、②AI安全性と国際協調の強化、③教育・研究体制の拡充、の3点を戦略的に進めることが、中国がAI大国から「AI強国」へ成長するための鍵となるだろう。


参考資料

  • 出典1:人民日報(2024年12月18日)「中国AI産業、核心技術で新たな突破」
    https://www.people.com.cn
  • 出典2:日経中文网(2024年9月25日)「中国AI、基盤技術で米国との格差依然」
    https://cn.nikkei.com/

AI国力

日本では、少子高齢化や労働力不足の課題を背景に、AIの活用が国の競争力を左右する重要なテーマになってきている。政府はAIを「国力の柱」と位置づけ、基盤整備や人材育成を進めている。しかし、世界のトップと比べると日本のAI力はまだ十分とは言えない。実用化のスピード、人材育成で米中欧に遅れを取っているのが現状である。

実際に2024年度の生成AI利用率は26.7%と低く、導入も遅れている。またAI教育・研究の国際大学ランキングでは、日本は上位100校に1校しか入っておらず、人材面での弱さが目立つことが分かる。国際的なAI国力ランキングでも、日本は2年で4位から9位に転落している。

日本がAI導入や人材育成で米中欧に遅れを取っている現状を的確に示しており、内容には概ね賛同できる。実際、AIの利用率や大学の研究力の低さは、国際的な競争力低下を裏付けている。しかし一方で、日本は安全性・倫理面を重視する慎重な姿勢をとっており、これはリスク回避という点では評価できる。ただし、この慎重さが導入スピードの遅れにつながっている点は否めない。米国や中国、韓国、UAEなどは国家戦略としてAIへの集中投資を行い、教育・実装を一体的に推進している。

日本がAI国力を高めるには、①人材育成の強化、②企業や行政での積極的なAI導入、③スピード感ある政策運用の3点が重要である。社会全体でAIを活用する環境整備を進めることで、国際競争力の回復と持続的な成長が期待できると思う。

参考資料

・出典1:ダイヤモンド・オンライン、2025/8/21、「将来の国力を決める「AI教育・研究」 上位100大学に日本は1校だけ、製造業大国の転換に遅れる」https://share.google/DfcocSyyuVNdmy4m4

・出典2:日経クロステック、2025/9/12、「日本の「AI国力」がわずか 2年で4位から9位に転落、韓国やUAEに抜かれた要因」

https://share.google/HE5kJ02N4PO4gjNMv

・出典3:内閣府「人工知能基本計画の骨子(たたき台)の概要について」

https://share.google/eQX7ZgiAv4IoPrywcフォームの始まりフォームの終わり

AI国力

 中国は2017年に「新一代人工智能发展规划」を発表し、2030年までに世界のAIリーダーとなることを国家目標に掲げた。政府はAIを経済成長と安全保障の両面で中核と位置づけ、研究開発・教育・社会実装を一体的に推進している。現在、中国のAI関連特許件数や論文発表数は世界上位を占め、AIを活用した行政・医療・交通システムが急速に拡大している。一方で、技術の自立や倫理的枠組みの整備といった課題も浮上している。

 参考とする記事は、世界経済フォーラム(World Economic Forum)中国語版「为什么中国所取得人工智能突破并不令人意外」である。この記事は、中国のAI躍進を偶然ではなく長期的政策の成果と捉え、国家主導の投資、人材育成、産業連携、豊富なデータ資源を成功要因として挙げている。また、米国の半導体輸出規制など外的制約の中でも、技術革新とオープンソース協力によって国内企業が成長している点を強調する。しかし、記事は政府主導の体制がもつ統制リスクや倫理的課題には十分に言及していない。

 筆者はこの記事の分析に概ね賛同するが、同時にその限界も指摘したい。中国のAI発展は確かに政策と資金の集中投下による成果であるが、イノベーションの質という点では依然として課題がある。特に基礎理論や半導体開発などの「源流技術」では米国や欧州に遅れを取っており、外国製GPUへの依存も続いている。また、政府主導のモデルはスピードを生む一方、表現の自由やデータ利用の透明性を犠牲にする可能性がある。AIの社会実装が進むほど、説明責任やプライバシー保護といった倫理的問題への対応が不可欠となる。さらに、地方間の技術格差や人材分布の不均衡もAI国力の「総合力」を弱める要因となっている。

 それでも中国には他国にない強みがある。広大な国内市場、膨大なデータ量、そして政府と企業の協調的関係は、AI技術を社会全体に迅速に展開できる環境を支えている。AIを都市管理や公共サービスに統合する政策は、国家全体を「実験場」として活用するという独自のモデルであり、他国が容易に模倣できるものではない。

 結論として、中国のAI国力は「速度と規模」において突出しているが、今後求められるのは「質と信頼」である。基礎研究の育成、倫理・ガバナンス制度の国際整合、そして創造性を重視した教育改革が進めば、中国はAI分野で真のリーダーシップを確立できるだろう。

  • 参考資料:
  • 世界経済フォーラム(中国語版)「为什么中国所取得人工智能突破并不令人意外」2025年7月27日
  • URL:https://cn.weforum.org/stories/2025/07/china-ai-breakthroughs-no-surprise-cn/

中国における「AI国力」

中国における「AI国力」は、すでに国家の総合的な競争力を測る重要な指標となっている。人工知能(AI)は単なる技術革新の問題ではなく、経済構造、産業安全、科学技術の自立、そして国際的影響力を左右する国家戦略の中核に位置づけられている。ドイツのシンクタンク MERICS が2025年7月に発表した報告書「China’s drive toward self-reliance in artificial intelligence」によると、中国政府はAIを「エネルギー・国防と並ぶ戦略的技術」として位置づけ、「独立可控(independent and controllable)」を基本方針に掲げている。この方針のもと、中国はAIチップ、大規模言語モデル(LLM)、計算インフラ、人材育成などあらゆる層で自立を追求し、単なる「応用大国」から「技術大国」への転換を目指している(MERICS, 2025, https://merics.org/en/report/chinas-drive-toward-self-reliance-artificial-intelligence-chips-large-language-models)。

まず、中国のAI国力の強みは三点に整理できる。第一に国家的戦略の明確さである。2017年に発表された《新世代人工知能発展計画》以来、AIは「第14次五カ年計画」や「第15次五カ年計画」の重点分野として位置づけられ、中央および地方政府の財政支援が拡大している。2024年時点で地方レベルのAI関連基金は累計1,000億元を超えた。第二に膨大なデータと市場規模である。10億人を超えるネット利用者を有する中国は、AIアルゴリズムの学習に必要なデータ資源と社会実装のフィールドを豊富に持つ。Eコマース、交通、医療、行政など、AIの応用は生活の隅々まで浸透している。第三に産業基盤とインフラの強さである。中国は製造業、通信網、データセンター建設で世界有数の水準を持ち、AI社会実装のための基礎条件が整いつつある。MERICSの報告も、「データからチップ、アルゴリズムから産業」まで一貫した生態系が形成されつつある点を評価している。

一方で、中国のAI国力には克服すべき課題も少なくない。第一はハードウェア分野での技術的ギャップである。先端GPUやEUV露光装置などでは依然として米欧企業に依存しており、技術輸出規制の影響も大きい。華為(ファーウェイ)や寒武紀などの国産チップ企業が台頭しているものの、世界最先端との差は残る。第二はイノベーションの多様性不足である。国家主導の体制は資源を集中させる利点があるが、自由な市場競争がもたらす創造的破壊の力は弱く、基礎理論や革新的アルゴリズムの創出では依然として課題がある。第三は倫理・国際信頼に関するジレンマである。データ管理と国家安全保障を重視する一方で、プライバシー保護や国際的なルール形成においては、透明性や信頼性の確立が求められている。

総じて言えば、中国のAI国力は「量的拡張」から「質的飛躍」への転換期にある。国家戦略の一貫性、膨大なデータ資源、強固な産業インフラが相まって、中国は2030年までに世界のAI中心国の一角を占める可能性が高い。しかし、真の「AI強国」となるためには、ハードウェアやアルゴリズムの追随だけでは不十分である。制度改革、人材育成、倫理規範、国際協力を包括的に推進し、「技術の自立」と「開放的共創」の両立を実現する必要がある。今後、中国がAIチップの自前化を進め、学際的な人材を育成し、国際ルール形成に積極的に参画できるかどうかが、AI国力の持続的発展を左右するだろう。

結論として、中国のAI国力は国家意志と産業活力の結合体であり、同時に技術自立とグローバル競争の試金石でもある。もし中国が「安全」と「開放」の間で動的なバランスを取りながら、質と価値を伴うAIエコシステムを構築できれば、その台頭は単なる経済現象にとどまらず、21世紀型国家の新たな競争モデルとなるだろう。

中国のAI国力

近年、中国は AI(人工知能)分野で急速に発展し、世界的な競争力を築いている。その国力の核心は国家主導の戦略と産業基盤にあり、「AI+」行動を通じて経済・社会全体を変革している。以下に主な特徴と課題を簡単に分析する。

1. 国家戦略「AI+」の推進


中国の最大の特徴はトップダウンの戦略設計である。2025 年 8 月、国務院は「AI+」行動計画を発表し、過去 10 年の「インターネット +」(情報接続)から「AI+」(機械への知能賦能)へ大転換した。「AI+」の目標は産業の「質的変化」である。製造業では生産全プロセスの智能化を進め、農業ではドローンによる精密農業を普及、医療・教育では AI による個別化サービスを展開している。また 2035 年までに「智能経済・智能社会」の実現を目指し、企業や研究機関のリソースを集中させている。

2. 産業基盤と技術力の強み


中国の AI は豊富なデータと広大な市場で支えられている。14 億人の人口が日々大量のデータを生成し、世界最大の 5G 網と 457 万社超のデジタル企業が AI の実験場を提供する。産業規模も世界トップクラスで、2024 年には AI 関連企業が 5300 社超(世界の 15%)、産業規模が 9000 億元(約 1.27 兆円)に達した。技術面では、10 億パラメーター超の大言語モデルが 100 個以上あり(米国を上回る)、アリババの「通義千問」などは国際的に活用されている。

3. 課題:国際競争と内部リスク


国際的には米中の AI 覇権競争が激化している。米国は同盟国と協力し、中国への高級半導体輸出を規制し、AI 開発を遅らせようとしている。これが中国の自主開発を加速させる一方、短期的には技術制約が生じる。内部的には課題もありる。アルゴリズムによる差別や構造的失業のリスク、データ汚染・プライバシー保護の問題が指摘されている。効率的な社会統治と個人の自由をどうバランスさせるかが、今後の課題である。

4.参考資料

中国、AI国家戦略「AI+」を宣言:「接続」の10年を経て、世界を揺るがす「知能化」への巨大な転換が始まった | XenoSpectrum

中国における「AI国力」について

小米(Xiaomi)のAIエコシステムを事例として

近年、人工知能(AI)は世界の経済・社会構造を大きく変えつつある。特に中国では、AI技術を国家戦略の中心に位置づけ、「新質生産力」の形成を進めている。その中で注目されるのが、中国の代表的テクノロジー企業である小米(Xiaomi)のAIエコシステムである。本稿では、小米の事例を通して、中国におけるAI国力の現状とその社会・経済的意義を考察する。

小米はスマートフォンメーカーとして知られているが、近年は「AIoT(AI+IoT)」戦略を推進している。AIを中心に据え、家庭内のスマートデバイス、ウェアラブル端末、車載システムなどを統合し、生活全体を連携させる「全屋智能」構想を展開している。AI音声アシスタント「小愛同学(Xiao Ai)」は、音声認識・自然言語処理・機械学習技術を活用し、数億台のデバイスを接続している(Zhao C,2025)。このようなAI技術の社会実装は、単なる製品開発にとどまらず、中国のAI応用力の高さを象徴しているといえる。

小米のAIエコシステムの拡大は、中国社会にさまざまな影響を与えている。第一に、AI技術を活用したスマート家電やIoT機器の普及が、生活の利便性を大幅に向上させた。第二に、AI関連産業の発展が新たな雇用やサービス産業を生み出し、経済成長を支えている。清華大学の『中国人工知能産業発展報告2024』によると、中国のAI市場規模は年々拡大しており、AI技術はスマート製造、医療、教育、エネルギーなど多様な分野で応用が進んでいる(清華大学, 2024)。こうした背景には、政府の強力な支援と企業の研究開発投資がある。

もっとも、中国のAI国力には課題も存在する。データのプライバシー保護、アルゴリズムの透明性、倫理的問題などが社会的議論の対象となっている。小米は自社開発チップ「澎湃(Surge)」シリーズを通じて技術自立を目指している。今後は、単にAIを利用する段階から、「AIを創造する国」への進化が求められる。

小米のAIエコシステムは、中国のAI国力を象徴する例である。AI技術を生活、産業、社会全体に浸透させることで、中国は国際的な競争力を高めつつある。今後は、技術的課題を克服し、より持続可能で人間中心のAI社会を実現できるかが鍵となる。AIを国家発展の動力とする中国の歩みは、世界のAI競争時代において重要な位置を占める。

参考論文:

Zhao C. The Evolutionary Revolution of Smart Home Systems Based on AI+ IoT[C]//Proceedings of the 2nd Guangdong-Hong Kong-Macao Greater Bay Area International Conference on Digital Economy and Artificial Intelligence. 2025: 1174-1179.

清華大学人工知能国際治理研究院(AIGI).[中国人工知能産業発展報告2024].

中国のAI国力について

 中国では、AIが国家戦略の核心として位置付けられ、「新一代人工知能開発計画」などの政策のもとで、技術開発と産業応用を急速に拡大している。AIを製造、エネルギー、医療、金融など多岐にわたる分野に導入し、経済のデジタル化と新産業の育成を進めることで、世界的な競争に参入している。しかし、その急速な発展の裏では、データの品質・共有性の不足、開放性などの弱さといった課題も指摘される。

 上海交通大学の『人工智能+”行业发展蓝皮书』(2025年)は、中国のAI産業が国家主導の下で急速に発展する一方、構造的課題を抱える理由を示している。中国では政府がAIを「国家競争力の中核」と位置づけ、資金・データ・政策を集中投下することで大規模モデルの開発や社会実装を短期間で実現した。しかし、研究資源が政府主導で分配されるため、基礎理論研究や独創的な発想が育ちにくいという課題がある。また、データ利用や研究環境が政治的規制に依存しており、国際的なオープンデータ共有や学術交流が制限されることも、技術革新の柔軟性を損ねている。

 これに対し、MERICS報告書(2025年7月)によると、アメリカはOpenAIやGoogleなどの民間企業が主導し、自由競争と大学・研究機関との連携によって技術革新を推進している。また、米スタンフォード大学の「人間中心のAI研究所(HAI)」が発表した『2025 AI インデックスレポート』によると、アメリカと両国の民間投資額では依然として大きな差があり、2024年時点では、米国が約1,091億ドル、中国が約93億ドルにとどまっていると報告されている。アメリカ政府は「AI Bill of Rights」などの枠組みを通じて倫理と透明性を重視し、研究の多様性と開放性が高く、過度な規制を避けつつ自律的な発展を支援している。

 以上のことから、中国のAI産業は国家主導で急速に発展しているが、その発展は国際的な開放性や倫理ガバナンスの整備などが追いついていない点が課題である。今後、中国が持続的な技術革新を実現するためには、政府の主導力を保ちつつ、基礎研究や国際連携を促進する柔軟な制度設計が求められる。

文字数:847

参考文献:

上海交通大学行研院(2025)『“人工智能+”行业发展蓝皮书(Artificial Intelligence + Industry Development Blue Book)』

Wendy Chang, Rebecca Arcesati, and Antonia Hmaidi. China’s Drive Toward Self-Reliance in Artificial Intelligence: From Chips to Large Language Models. MERICS Report, Mercator Institute for China Studies (MERICS), July 2025.

Stanford University Human-Centered Artificial Intelligence (HAI). (2025). AI Index Report 2025. Stanford University.

日本のAI国力について

米スタンフォード大学が調査したAI国力ランキングにおいては、我が国は2021年まで世界で4位であったが、2022年にインドに抜かれ5位へ、2023年においては9位へと大きく後退している。2022年にChatGPTが登場する前までは高い国力を示していたが、生成AIが世界的なブームに沸くと、その順位を一気に落としてしまったといえる。

 AI国力は様々な分野で定量評価が行われ、その合計数値で順位が決まる仕組となっている。2023年に順位を上げてきたUAE、韓国、フランスといった各国と比べて、日本は教育や多様性、世論といった分野で大きく劣後する結果となっている。加えて、研究開発やAIスタートアップへの公募投資額、人材への投資額についてもUAEと比べて大きく見劣りする結果となっている。

 日本は今後、政府、民間が一体となってAIに対する積極的な投資を行い、AI人材を増やしていく必要があると考える。サスティナビリティに関して、政府、民間が一丸となって取り組む風土が漸く出来上がりつつあるように、AIについても将来の長期的なロードマップを作り上げたうえで、中期的に取り組んでいくことを明確化し、1年ごとに進捗状況を明らかとしてうえで、その成長度合いを具現化していくプロセスを構築していかなければならない段階にきていると判断すべきである。

 AIの人材育成については一朝一夕ではなしえず、また他国から借りてくるといったことも現実的ではないため、幼少期から成人に至るまでの教育課程において、どのような教育を行い、人材を育成していくかという国家戦略が今後、問われていくことになると予想される。

 このようなAI人材の育成が全国的に進められていくということから、AIに基づくビジネス支援については国のみならず地方行政団体も積極的に関与していく必要があると考える。地方へも財源を与え、活発な投資を後押しする仕組を構築する必要があり、地域の金融機関についても役割を再定義する必要があると考える。官民一体となる仕組が地方から芽生えれば、順位に一喜一憂することなく、我が国のAI国力は盤石なものになると確信する。

 (出所)日経クロステック 2025年9月12日 中田敦

     「日本の「Ai国力」がわずか2年で4位から9位に転落、https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/03079/091100019

日本の「AI国力」の現状と課題について

 現在わが国におけるAIを取り巻く状況は厳しい。日本のAI産業応用は、米国や中国と比較するといくつかの点で優位性と独自性を持っているものの、全体的な競争力では劣勢にあるのが現状だ。

先月12日の日経クロステックで、日本の「AI国力」がわずか2年で世界4位から9位に転落、韓国やアラブ首長国連邦(UAE)に追い抜かれたことがスタンフォード大学の調査で明らかになったと報じられた。UAEは国家主導でAI大学を設立し、人材育成と研究開発を加速。韓国はAI半導体や基盤モデル開発に巨額投資を行い、産業界との連携も強化している一方、日本は政策の一貫性やスピードに欠け、AIスタートアップ支援やデータ活用環境の整備も遅れている上、産学官の連携不足や人材流出も課題で、国際競争力が低下しているというものだ。

 確かに、韓国やUAEは国家主導でAI研究を集中投資しているのに対し、日本は資金配分が分散し、研究スピードの遅さが際立つ。また、AIに限らず日本のスタートアップ企業およびユニコーン企業数の割合は他国に比べて極端に少ない。日本企業の自前主義、規制の厳しさや失敗を許容しない文化が障壁となっていると考えられるが、それに伴って、若手研究者の海外流出や博士課程進学率の低さなどが深刻な状況になっていることも一因として挙げられる。日本のそうした企業や国民による「様子見」姿勢が、AIの導入を妨げ、結果としてAI国力の低下を招いているのではないだろうか。

 では今後、日本のAI国力を高めるためにはどうすれば良いのだろうか。
 一つは、「現場適合型AI」の強化である。製造・建設・インフラ・医療・介護など、日本が得意とする分野に特化した軽量・高精度・高信頼AIの開発実装による差別化を推し進めること。特にスーパーコンピュータや制御技術を活用したAIハードウェア・データセンター分野での国際競争力を強化することである。
 もう一つは、挑戦を許容する文化を醸成することで、AI人材育成とリスキリングを加速させることである。特に、若手・社会人向けのAI教育プログラム拡充と待遇改善を強化しなければならない。若手や外国人が失敗を恐れることなく自由に挑戦し、活躍できる、そして何度でもやり直せる環境づくりは、今やAI国力のみならず、わが国の持続的成長にとっても欠かせない視点であると言えるだろう。(974字)

【参考資料】
・『日本の「AI国力」がわずか2年で4位から9位に転落、韓国やUAEに抜かれた要因』中田敦/日経クロステック(25/9/12掲載)https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/03079/091100019/
・『AI世界競争の中での日本の立ち位置と課題・可能性とは?』ノーコード総合研究所(25/4/3掲載)https://nocoderi.co.jp/2025/04/03/page/5/