AI国力

米中の技術覇権競争の下で、米国は最先端AIチップやEDAソフトの対中輸出を禁じ、算力サプライを絞る戦略を進めている。他方の中国は外圧を逆手に取り、国産化と技術自立を加速させ、AIを「新質生産力」として不動産依存からの構造転換を図っている。

China Daily(2025年9月12日)は、「AI Plus」構想が社会のあらゆる分野に浸透しつつあると報じ、製造、エネルギー、金融、教育、行政などでAI活用が広がっていることを指摘した。この動きは単なる技術導入ではなく、AIを経済発展の中核に据える構造的転換である。

企業面では、Huaweiの AIチップ、Baiduの文心、Alibabaの通義千問、DeepSeekなどが自前チップと大規模モデルを統合開発し、独自エコシステムを形成している。これにより中国は製造業の高度化、鉱山やエネルギーの自動化、医療・教育・行政の最適化など、実体経済と結びついたAI応用を急速に拡大させている。また、西部地域の電力資源を活用する「東数西算」政策によって、電力と計算力を統合的に整備し、AIインフラを国家レベルで拡充している。

一方、米国はAI研究とモデル開発の先頭を走るものの、その基盤拡張は複数の構造的制約に直面している。Deloitte(2025年6月24日)は、AI経済の急拡大に対して電力供給、データセンター容量、サプライチェーンの整備が追いついておらず、米国のAIインフラが需要に対応できないと分析している。さらにReuters(2025年4月23日)は、トランプ政権が再び導入した高関税政策と対中技術摩擦の激化により、レアアースや半導体の供給が不安定化し、AI関連サプライチェーン全体が混乱していると報じた。製造業の空洞化によりAI技術を実際に活用できる産業現場が限られ、算力需要が伸び悩む構造的問題も顕在化している。AI関連株価が急騰する一方で、インフラと実需が追いつかず、電力供給の遅れやコスト上昇がAI経済の持続性を脅かしている。

総じて、中国は「モデル・データ・計算力・エネルギー・応用場面」を有機的に結合させ、実体経済と連動したAI成長モデルを確立しつつあるのに対し、米国はエネルギー供給と製造基盤の脆弱性により、AI拡張に構造的制約を抱えている。今後の競争の焦点は技術そのものではなく、それを支えるインフラ・産業体系・国際供給網の総合的整備力に移りつつある。

参考文献

China Daily. (2025). AI Plus conducive to driving industrial upgrading. https://global.chinadaily.com.cn/a/202509/12/WS68c35ddaa3108622abca0543.html. (cited 2025-10-11).

Deloitte. (2025). Can US infrastructure keep up with the AI economy. https://www.deloitte.com/us/en/insights/industry/power-and-utilities/data-center-infrastructure-artificial-intelligence.html. (cited 2025-10-11).

Reuters. (2025). AI boom under threat from tariffs, global economic turmoil. https://www.reuters.com/technology/artificial-intelligence/ai-boom-under-threat-tariffs-global-economic-turmoil-2025-04-23/. (cited 2025-10-11).

日本のAI国力と人材育成の課題

 AIは、もはや未来の技術ではない。社会の隅々に浸透し、政策、産業、教育、そして日常生活にまで影響を及ぼす存在となった。だが、その進化のスピードに、日本の人材育成は追いついているだろうか。

 大和総研が2024年7月に発表したレポート『不足するAI人材の育成は間に合うのか』は、警鐘を鳴らす。2030年には最大12.4万人のAI人材が不足する可能性があるという。AI人材とは、単にプログラムを扱える技術者ではない。AIの構造を理解し、社会実装に向けた設計・運用・倫理的判断まで担える、総合的な知見を持つ人材である。こうした人材の育成には、時間も資源もかかる。教育機関のカリキュラム、企業の研修制度、そして社会全体の理解と支援が不可欠である。

 一方、総務省『令和6年版 情報通信白書』は、生成AIの急速な普及に伴うリスクを明示する。生成AIは、創造性と効率性を飛躍的に高める一方で、事実に基づかない誤情報を生成する「ハルシネーション」、偽画像・偽動画を作成する「ディープフェイク」、個人情報の漏えい、著作権侵害など、複雑かつ深刻な課題を孕んでいる。

 これらのリスクに対処するには、技術的スキルだけでは不十分である。法制度、倫理、情報セキュリティに通じた多分野の知識を持つ人材が必要であり、AI人材の定義そのものが高度化している。つまり、AI人材の育成は、単なる技術教育ではなく、社会全体の構造的な対応が求められるフェーズに入っている。

 海外に目を向ければ、米国では主要AI企業が政府と連携し、安全性確保に向けた自主的な取り組みを進めている。EUでは「AI法」や「デジタルサービス法」によって、企業にリスク評価と対策の実施を義務づける法的枠組みが整備されている。これに対し、日本は国産LLMの開発やフェイク対策技術の研究において一定の成果を挙げているものの、制度整備や人材育成の面では依然として課題が残る。

 AI国力とは、技術力だけでなく、それを支える人材と制度の総合力である。日本が生成AIを含むAI技術の恩恵を最大限に享受し、国際競争力を維持・強化するためには、教育、産業界、政府が連携し、AI人材の育成を加速させる必要がある。特に、生成AIの活用においては、誤情報や偏見の拡散を防ぐための倫理的判断力を備えた人材の育成が急務であり、社会全体でAIの適切な利活用を支える基盤づくりが求められる。(996文字)

<参考文献>

田邉 美穂(2024年7月11日)『不足するAI人材の育成は間に合うのか 日本におけるAI 人材育成の取り組みとその課題』株式会社大和総研 経済調査部https://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20240711_024496.pdf

総務省(2024)『令和6年版 情報通信白書 第Ⅰ部 第4章 第1節「AIの進化に伴う課題と現状の取組」』https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/pdf/n1410000.pdf

日本におけるAI国力について

1. はじめに

AIは、国家経済・安全保障・社会制度に影響を与える戦略技術であり、国力の一部として位置づけられる。日本では2025年に「AI法」が施行、政府主導のAI戦略が本格化したが、AI国力は政策だけでなく、民間企業の実装力や国民のAIリテラシーにも左右される。特に基幹産業である製造業では、AI活用の成否が国力に直結する。

2. 参考資料の要約

ダイキン工業では、AI人材育成と現場実装に取り組んでいる(東洋経済オンライン、2025年)。製造現場の「暗黙知」をAIでデータ化し、遠隔支援や設計開発に活用することで競争力を高めている。また、社内に情報技術大学を設立し、若手社員を2年間教育に専念させAI人材を育成している。

一方、米国企業ではAIを製造工程に組み込み、品質管理や予測保守に活用している事例(JBpress、2025年)があり、中国では国家主導でロボット開発が進み、AIを活用した自動化が急速に進展している(朝日新聞GLOBE+、2025年)。

3. 自分の考察

ダイキンの事例は、AI国力の形成において民間企業の役割が重要であることを示す。特に、現場の知見をAIに取り込む「社会実装力」は、日本の製造業が持つ強みを活かす方向性として有効だ。しかし、こうした取り組みは一部の先進企業に限られ、全国的に広がっていない。

他国との比較では、米国はスタートアップとの連携やデータ活用が進んでおり、AIを業務プロセスの中核に据えている。中国は国家主導でAI産業を育成し、製造現場へのロボット導入が進んでいる。日本は技術力では一定の水準にあるが、制度整備や人材育成、社会実装の面で出遅れている。

また、国民のAIリテラシーの低さも懸念材料である。日本の学校教育におけるAI活用率は55カ国中54位と極めて低く、AIを授業で使った教員の割合は小中学校で17%前後に留まり、国際平均を大きく下回る(朝日新聞デジタル、2025年)。これは、将来的なAI人材の育成において深刻な懸念である。

4. 結論

AI国力を高めるには、政府戦略だけでなく、民間企業の実装力と国民のAIリテラシー向上が不可欠である。具体的には、①企業による現場主導の活用、②教育現場での導入促進、③国民向けのリテラシー啓発、④地域格差を考慮した支援策が求められる。AIは国家の未来を左右する技術であり、社会全体での理解と活用がAI国力を支える基盤となる。

参考資料

AI国力

あなたの母国における「AI国力」について論じなさい。

中国のAIは、見ながら見まねから始まって、独自の強みを持つ世界で特色と影響力があるまで成長した。中国AI大規模言語モデル(例えばDeepSeek)は急速に発展しているが、計算資源の不足、高品質なデータの欠如、核心アルゴリズムの革新が課題である。

羅智泉氏(2025年4月7日)は「AIの発展現状と応用展望」をテーマに講義を行った。中国のAI大モデルは急速に進化しているが、高いエネルギー消費型の発展は持続不可能である。大モデルの導入にはコストを考慮すべきで、特定分野に特化した中小規模のモデルが有望な新たな方向性である。世界的に見て、AIの分野横断的な応用には大きな可能性がある。さらに、AIのグローバルな動向と先端研究、産業高度化を牽引するAI応用例、そしてAIがもたらす影響と将来トレンドについて言及。特に、通信、教育、医療分野におけるAIの応用例を重点的に紹介した。

DeepSeekは数学とプログラミングに特化した「技術専門家」として、その圧倒的なコスト性能とオープンソース戦略で強みを発揮する。一方、ChatGPTは「万能型」として汎用性と創造性、多様な機能で差別化しているが、その分コストが高いという特徴がある。用途に応じて両者を使い分けることが効果的である。

中国AIの技術発展に楽観的である。各産業向けの大規模モデルには、エネルギー消費の大きさや「モデル忘失」といった課題があるが、ネットワーク最適化、大規模モデル、数理計画ソルバーを基盤とした、多様で広範かつ総合的な研究開発プラットフォームの構築を提案している。

日本のAI国家戦略

日本のAI国家戦略は、大きな岐路に立たされている。基盤技術の開発競争で米中に後れを取り、国内での社会実装も思うように進まない。この課題の根源は、技術力そのものよりも、むしろ国家としての制度設計と連携体制の弱さにあるのではないか。

その問題を象徴するのが、日本経済新聞(2025年3月10日)「生成AIで広がる国際格差」で指摘されている状況である。海外製AIへの依存が続くなか、「国産AIの育成が急務」という掛け声とは裏腹に、産業界の投資は依然として慎重なままである。これは、個々の企業の努力だけでは国全体の潮流を生み出せない現実を示している。

一方、BBC News Japan(2025年4月2日)は、“South Korea invests in AI sovereignty” の見出しで韓国の国家ぐるみの取り組みを伝えている。韓国は「AI主権」を明確に掲げ、AIを安全保障と経済成長の核と位置づけている。政府と民間が連携し、AIチップから大規模言語モデル、人材育成までを一気通貫で支援する体制は、日本の現状とは対照的だ。

結論は明快である。日本に今必要なのは、個別的な「点の努力」を称賛し合うことではない。産官学の知見とリソースを結集し、国全体の「AI国力」へと転換させる戦略的な仕組み、すなわち「使いこなすための社会システム」の構築である。それができなければ、次の10年で日本はAI先進国との差を決定的に広げられることになるだろう。