最近、「AI国力」という言葉をよく耳にするようになった。以前はAIといえば研究者やエンジニアの話だったが、今は私たちの日常生活の中にも自然に入り込んでいる。中国では、スマートフォンのアプリで顔認証を使って買い物をしたり、信号機がAIで交通量を判断して青信号の時間を自動調整したりする。こうした便利さは、AIが国の力の一部になっていることを感じさせる。
最近、SNSで話題の中国のAIモデル「DeepSeek」を試してみた。文章の要約や翻訳、資料作成がとても速く精度も高かった。数年前までは「ChatGPT」などアメリカのAIが中心だったが、今は中国発のモデルも実力を伸ばしている。スタンフォード大学の「AI Index 2025」によると、中国はAI特許数で世界1位、研究論文の発表数でもアメリカを上回ったという。一方で、投資額やGPUなどの計算資源ではまだアメリカに差をつけられており、中国は「応用では強いが基盤技術では制約が多い」と言える。
身近なところでもAIは教育や仕事の現場に広がっている。私が通っていた中国の学校でも、AIを使った自動採点やオンライン授業による個別学習支援が導入されていると聞いた。以前は都市部の学校だけが新しい技術を取り入れていたが、今では地方でもAI教材を活用できるようになり、AIの発展が「教育の平等化」に貢献していると感じる。
一方で、AIがもたらす不安もある。求人サイトではAIが履歴書を審査するようになり、「人間の努力や個性が数字で評価される時代」になったことに少し怖さを覚える。また、防犯カメラや顔認証の普及で安全性は高まるが、プライバシーの問題も深刻化している。AI国力が高まるほど、技術と人間らしさのバランスを考える必要があると思う。
中国のAI発展で特に感じるのは「スピード」と「実行力」の強さである。新しい技術を社会に取り入れる速さは世界でもトップクラスで、政府も企業も行動が早い。街の配達ロボットや無人コンビニなど、数年前はSFのようだったものが今では普通に見られる。それは便利だが、人の働き方や価値観を変えるきっかけにもなっている。AIは国の力を高めるだけでなく、私たちの生活そのものを変えているのだ。
今後、中国がAI強国として発展するには、技術力の強化だけでなく、社会全体でAIとどう共存するかを考えることが大切だ。AIが人間の代わりに働くのではなく、人の可能性を広げる存在として活かせるような制度や教育が必要である。AI国力とは、どれだけAIを使えるかではなく、どれだけ人々の生活を豊かにできるかを示すものだと私は思う。
Stanford HAI(2025)『AI Index Report 2025』https://hai.stanford.edu/ai-index/2025-ai-index-report
Reuters(2025年6月12日)“US says China’s Huawei can’t make more than 200,000 AI chips in 2025” https://www.reuters.com/world/china/us-says-chinas-huawei-cant-make-more-than-200000-ai-chips-2025-2025-06-12/

