1. 問いと立場
本稿の問いは「ロボットに税金をかけるべきか」である。筆者は条件付きで賛成の立場を取る。自動化がもたらす生産性向上は社会に利益をもたらすが、同時に雇用構造の変化と税収構造のゆがみを引き起こす。したがって、技術の発展を妨げずにその「副作用」を調整するための制度的工夫が必要である。ロボット課税は、技術の恩恵を公平に分配するための移行期的な政策ツールとして位置づけられるべきだと考える。
2. 用語の定義と課税対象
本稿でいう「ロボット」とは、産業用ロボットに限らず、AIや自動制御システムなど、人の判断や労働を部分的に代替する広義の自動化技術を含む。課税対象は、ロボット導入によって企業が得た超過的な利益である。Abbott ら(2018)は、現行の税制度が労働所得に偏っており、自動化が進むほど税基盤が縮小すると指摘している。よって、ロボット自体に直接課税するのではなく、導入効果によって増加した収益部分に限定して軽く課税する方式が現実的である。
3. 主な論点の整理
(1)雇用と賃金
自動化は短期的に人手を置き換えることで雇用を減少させるが、長期的には新しい職業を生み出す可能性もある。OECD(2023)は、自動化の影響を受けやすい職業が加盟国平均で約27%を占めると報告しており、とくに中・低技能労働者の再雇用が課題である。
(2)税の公平性
Acemogluら(2020)は、米国の税制が資本投資を優遇する結果、企業が「人を雇うより機械を導入する方が得」と感じる構造になっていると指摘した。ロボット課税はこの歪みを緩和し、労働と資本の負担を中立化する手段となり得る。
(3)財政の持続性
Hötteら(2024)は、欧州19か国を対象とする研究で、自動化の初期段階(1995〜2007年)には税収が一時的に減少したが、その後は回復傾向を示したと述べている。短期的な財政悪化は過度に懸念すべきではなく、長期的には新たな税基盤が形成されると考えられる。
4. 簡単な数値例
自動化が雇用に与える影響を数量的にみると、その偏りが明確になる。以下の表は、OECDおよびPwCの研究結果をもとに、自動化のリスクと産業別の影響を整理したものである。
表1 自動化(ロボット/AI)導入が労働・雇用に与える主な影響
| 指標 | 概要 | 出典 |
| 高自動化リスク職の就業成長率 | 高リスク職の就業成長率は約6%にとどまり、低リスク職(約18%)との差が拡大している。 | OECD(2021)『What happened to jobs at high risk of automation?』 |
| 自動化リスクのある職業の割合 | OECD加盟国平均で約27%の職業が「自動化の高リスク」に分類される。 | OECD(2023)『OECD Employment Outlook 2023』 |
| イギリスにおける産業別リスク | 運輸・保管業で約56%、製造業・販売業で約40%前後の職が自動化の影響を受ける。 | PwC(2017)『Will Robots Steal Our Jobs?』 |
これらの数値から、自動化の影響は特定の産業に集中しており、とくに低技能労働者にとって深刻であることがわかる。したがって、ロボット課税で得られる財源を、再教育(リスキリング)や転職支援に充てることは社会的に合理的である。
5. 反対意見とその検討
一つ目の反対意見は「課税が企業投資を抑制し、国際競争力を損なう」というものである。これに対しては、税率を軽くし、対象を「超過利益」に限定することで影響を最小化できる。
二つ目の懸念は「利益の測定が難しい」という点であるが、Abbottら(2018)が提案するように、生産性向上率やコスト削減額などの客観的指標をもとに算出すれば実務的に運用可能である。
三つ目は「海外への生産拠点移転のリスク」である。だがOECDの国際的な最低法人税制度に合わせて設計すれば、税逃れを防ぎつつ公平な競争環境を維持できる。
6. 政策オプションと私の提案
ロボット課税を有効に機能させるには、単に税を新設するのではなく、既存制度を組み合わせて「技術と雇用が共存する構造」をつくることが重要である。筆者は次の三段階からなる社会循環型課税モデルを提案する。
- 課税の対象を「ロボット導入による超過利益」に限定し、税率を2%程度に設定する。
- これにより企業の投資意欲を損なわず、同時に社会への再分配を実現する。
- 税収の使途を明確化し、リスキリングと地域雇用支援に限定する。
- 特に自動化の影響を受けやすい職種に対し、再教育や職業転換を支援する基金を設ける。
- 中小企業に対しては減税または即時償却を導入し、格差拡大を防ぐ。
- 技術導入が遅れる企業へのインセンティブを維持することで、社会全体の生産性向上につなげる。
この方式は、課税を「罰則」ではなく「技術の恩恵を共有するための仕組み」として設計する点に特徴がある。自動化の利益を社会へ循環させることで、雇用の移行期に生じる不公平を緩和できるだろう。
7. 結論
ロボット課税を重税として導入すれば、技術発展を阻害する危険がある。しかし、軽い税率・限定的な期間・明確な使途を条件とするならば、ロボット課税は社会の安定を支える合理的な政策になり得る。
自動化が進む未来において求められるのは、技術と人間の「共存」を制度的に支えることだ。よって筆者は、条件付きでロボット課税に賛成する立場を取る。
参考文献
Abbott, R., & Bogenschneider, B. (2018). Should robots pay taxes: Tax policy in the age of automation. Harv. L. & Pol’y Rev., 12, 145.
Acemoglu, D., Manera, A., & Restrepo, P. (2020). Does the US tax code favor automation? (No. w27052). National Bureau of Economic Research.
Broecke, S. (2023). Artificial intelligence and the labour market: Introduction. OECD Employment Outlook, 93.
Hötte, K., Theodorakopoulos, A., & Koutroumpis, P. (2024). Automation and taxation. Oxford Economic Papers, 76(4), 945-969.
PwC. (2018). Will robots really steal our jobs? An international analysis of the potential long term impact of automation. PricewaterhouseCoopers.
OECD. (2021). What happened to jobs at high risk of automation?.
