日本のAI国力:現状と課題のまとめ

1. 現状認識:高い潜在力と顕在化する遅れ

強み(潜在力):

ものづくり基盤:高い製造技術と、実世界(実空間)に強みを持つ産業基盤(ロボット、自動車など)がある。

研究開発人材:研究者の数は世界第3位であり、平均年齢が米国より若い(約40歳)。長期の基礎研究と細やかな改良(すり合わせ技術)に強みがある。

未活用のデータ資産:研究ノートや製造現場のクローズドデータなど、汎用AIが学習していない貴重な「サイエンスデータ」を大量に保有している。

弱み(遅れと課題):

企業投資と戦略の遅れ:ChatGPTに代表される生成AIや基盤モデルの開発競争で、米中に大きく後れを取っている。特に「攻めの投資」が不足。

IT/AI人材の不足:AIを開発・活用できる高度人材が不足している。教育と採用が遅れており、OECD調査でも「ITを活用した問題解決能力」は10位と低迷。

業務プロセス革新の遅れ:AI化が「業務の置き換え」に留まり、業務プロセスそのものを変革する「革新」段階に至っていない。

研究力の低下:論文数は停滞・減少し、論文の影響力を示す「相対インパクト」は31位まで低下。大学教員の研究時間も減少している。

2. 核心的な課題

「情報空間」での競争敗退:第四次産業革命は「情報空間」から「実空間」へ進出する。しかし、あらゆる企業がIT企業化する中で、IT化が不得手な日本企業は不利な立場にある。

「頭脳資本主義」への適応不足:現代は労働者数ではなく、「頭脳」のレベルが競争力を決める。世界的な頭脳の奪い合いの中で、日本は優秀な人材を惹きつけ、育成する仕組みが脆弱である。

エネルギー制約:生成AIの進化には膨大なエネルギーが必要。データセンターの電力需要増大に対応する、効率的なエネルギー利用技術(人工光合成、核融合等)の開発が急務。

3. 提言される成長戦略と回復への道筋

独自LLMとデータプラットフォームの構築:日本が強みを持つ「サイエンスデータ」や製造現場データを活用した、偏りのない専門的な大規模言語モデルを構築する。計測機器メーカー等と連携し、研究データを共有するプラットフォームを確立し、新たなビジネス基盤とする。

コンソーシアムによる突破:量子技術など巨額投資が求められる分野では、単独では太刀打ちできないため、企業や研究機関がコンソーシアムを組み、官民一体で技術開発と標準化を目指す。

人材戦略の大転換:

教育の転換:知識の暗記から、問題発見・解決能力、創造性を育成する教育へ。リベラル・アーツとSTEM教育の両輪が重要。

高度人材の獲得:シリコンバレーなど世界のトップ人材を日本に招致したり、交流させたりすることで、キャッチアップと独自性の創出を図る。「真の働き方改革」:無駄な会議や雑務を削減し、人材がクリエイティブな業務に特化できる環境を整える。

俯瞰的・客観的な長期戦略の策定:AI、量子、核融合など複数の技術の進展を俯瞰的に分析し、様々な未来シナリオを想定した上で、柔軟に調整可能な長期戦略を立てる。

総括

日本のAI国力は、高い潜在力(製造力、研究人材、データ)を十分に活かし切れていない状態にあります。ChatGPT登場後のランキング急落は、この「潜在力と現実のギャップ」を象徴しています。

回復のカギは、「ものづくり」の強みを「情報空間」での競争力にどう結びつけるかにあります。そのためには、自らの強みを活かした独自LLMの構築、世界に開かれた人材戦略、そして技術の潮流を読む俯瞰的な視点が不可欠です。これらを実現できたとき、日本はAI時代において「技術の消費者」から「価値の創出者」へと再び躍進できる可能性があります。

参考文献

1、俯瞰的にみたAIの進化と日本の国際競争力 ー日本企業にAIに飲み込間れるのか? 中村達生 Japlo Year Book 2025 https://japio.or.jp/00yearbook/files/2025book/25_3_06.pdf

2、AI時代に日本は逆転できるか?-競争力強化と教育改革 井上智洋 https://www.soumu.go.jp/main_content/000520386.pdf

「AI国力」について

1. はじめに

中国のAI国力は、この数年で大きく成長してきた。政府は「人工智能発展規画」などを通じてAIを国家戦略産業として推進し、企業もインターネット、医療、物流、製造など幅広い分野でAIの社会実装を加速させている。一方で、基盤モデルの開発競争、半導体制裁、国際ルールへの対応など、課題も少なくない。以下では、参考資料を要約し、それを踏まえて中国のAI国力について考察する。


2. 参考資料の要約

人民日報(2024年12月18日)「中国AI産業、核心技術で新たな突破」では、中国のAI産業が規模拡大を続け、2023年時点でAI関連企業数は4,500社を超えたと紹介されている。記事は、中国が大規模言語モデル(LLM)や自動運転、スマート製造で実装が進んでいる点を強調し、特に「応用で先行・基盤で追走」という構図を示している。また、政府と企業の共同投資が増え、AI教育や人材育成政策も進められていると報じている。


3. 参考資料の要約

日経中文网(2024年9月25日)「中国AI、基盤技術で米国との格差依然」では、中国AIの強みを認めつつも、最先端半導体(特にGPU)へのアクセス制限や国際ルールの不確実性を課題として挙げている。基盤モデルの性能評価では依然として米国勢が優勢であり、研究論文の影響力でも差が残るという指摘がなされている。


4. 自分の考察

2つの資料を比較すると、中国のAI国力は「応用分野での強さ」と「基盤技術での制約」という二面性を持つことがわかる。実際、中国ではEC、金融、医療画像診断、物流最適化など多くの分野でAIが広く利用されており、社会実装のスピードは世界的にも高い。一方、GPUの供給制限やチップの国産化の遅れは、中国AIの長期的な競争力を左右する深刻な問題である。

しかし、応用力の強さは中国の重要な武器である。ユーザー規模が巨大で、アプリ実装と市場検証を高速に回す「実験的生態系」が存在することは、他国にはない優位性だ。また、政府がAI教育・研究に大規模投資を続け、地方レベルでもAI産業クラスターが整備されている点も、中国のAI国力を押し上げている。

その反面、国際協調や透明性の確保、安全性評価などの「ソフト面の国力」を強化しなければ、AIの国際標準化において発言力を高めることは難しいと考える。基盤チップ開発の自立化と国際ルール形成への積極的な参加が、今後の課題である。


5. 結論

中国のAI国力は、社会実装のスピードと市場規模に強みを持ちながらも、基盤技術と国際ルール対応に課題を抱える「強さと弱さの共存した段階」にある。今後は、①半導体と基盤モデルの自立化、②AI安全性と国際協調の強化、③教育・研究体制の拡充、の3点を戦略的に進めることが、中国がAI大国から「AI強国」へ成長するための鍵となるだろう。


参考資料

  • 出典1:人民日報(2024年12月18日)「中国AI産業、核心技術で新たな突破」
    https://www.people.com.cn
  • 出典2:日経中文网(2024年9月25日)「中国AI、基盤技術で米国との格差依然」
    https://cn.nikkei.com/

AI国力

日本では、少子高齢化や労働力不足の課題を背景に、AIの活用が国の競争力を左右する重要なテーマになってきている。政府はAIを「国力の柱」と位置づけ、基盤整備や人材育成を進めている。しかし、世界のトップと比べると日本のAI力はまだ十分とは言えない。実用化のスピード、人材育成で米中欧に遅れを取っているのが現状である。

実際に2024年度の生成AI利用率は26.7%と低く、導入も遅れている。またAI教育・研究の国際大学ランキングでは、日本は上位100校に1校しか入っておらず、人材面での弱さが目立つことが分かる。国際的なAI国力ランキングでも、日本は2年で4位から9位に転落している。

日本がAI導入や人材育成で米中欧に遅れを取っている現状を的確に示しており、内容には概ね賛同できる。実際、AIの利用率や大学の研究力の低さは、国際的な競争力低下を裏付けている。しかし一方で、日本は安全性・倫理面を重視する慎重な姿勢をとっており、これはリスク回避という点では評価できる。ただし、この慎重さが導入スピードの遅れにつながっている点は否めない。米国や中国、韓国、UAEなどは国家戦略としてAIへの集中投資を行い、教育・実装を一体的に推進している。

日本がAI国力を高めるには、①人材育成の強化、②企業や行政での積極的なAI導入、③スピード感ある政策運用の3点が重要である。社会全体でAIを活用する環境整備を進めることで、国際競争力の回復と持続的な成長が期待できると思う。

参考資料

・出典1:ダイヤモンド・オンライン、2025/8/21、「将来の国力を決める「AI教育・研究」 上位100大学に日本は1校だけ、製造業大国の転換に遅れる」https://share.google/DfcocSyyuVNdmy4m4

・出典2:日経クロステック、2025/9/12、「日本の「AI国力」がわずか 2年で4位から9位に転落、韓国やUAEに抜かれた要因」

https://share.google/HE5kJ02N4PO4gjNMv

・出典3:内閣府「人工知能基本計画の骨子(たたき台)の概要について」

https://share.google/eQX7ZgiAv4IoPrywcフォームの始まりフォームの終わり

ロボットに課税すべきか:定義・影響・代替案まで

1. 問いと立場

問いの「ロボットに課税すべきか」に対し、私は「条件付き賛成」である。条件は、①自動化による格差拡大への対応(公平性)が必要なこと、②課税対象を「雇用代替によるロボットのおかげで増えた利益(超過利潤)」に限定し技術進歩を止めないこと(中立性)、③得られた財源を労働者の再訓練や生活支援に充てること、の3点である。

2. 用語の定義と課税対象

ここでの「ロボット」は、AIソフトウェアを含む、人間の労働力を完全または部分的に代替する全ての自動化資産を指す。

課税対象は、これらの自動化資産の導入によって生み出された超過利潤に限定すべきである。これにより、技術革新を邪魔して誰の得にもならない経済的なムダ(死重の損失)を最小限に抑えられる。この税収は、労働者への社会保険料の財源補填を目的とする。

3. 主要論点の整理

  • 雇用と賃金への影響: ロボットによる単純作業の代替は、短期的には非熟練労働者の賃金低下や雇用の喪失リスクをもたらすため、長期的な再分配策が必須となる。
  • 税の中立性・歪み: 過度な課税は投資を抑制し、死重の損失を生む最大の懸念である。税は企業の技術選択を歪めないよう、課税対象を慎重に設計する必要がある。
  • 公平性と財源確保: 社会保険料の税収減に対し、ロボット課税は新たな財源を確保し、技術革新の恩恵を社会全体で公平に再分配する上で重要となる。
  • 実務運用と仕組みのわかりやすさ: ロボットの定義や超過利潤の正確な測定は難しく、「仕組みのわかりやすさ(簡素性)の原則」を満たすための仕組み作りが大きな課題である。

4. 簡易モデル/事例

近年導入が進んでいるファミリーレストランの配膳ロボットを事例に取り上げる。導入費用300万円、年間利益120万円と仮定する。

  • 税がない場合: 投資回収年数は 300万円 ÷ 120万円 = 2.5年。
  • 超過利潤に課税する場合: ロボットの利益のうち20万円を徴収すると、年間の純利益は100万円になり、投資回収年数は 300万円 ÷ 100万円 = 3年に延びる。

課税後も企業が許容できる期間(例:5年以内)の投資回収が可能であれば投資は実行されるため、過度な投資抑制にはならず、社会貢献も可能となる。この事例は、税金をかけても投資が実行されれば死重の損失が最小限に留まるという結論を裏付ける。

図. 配膳ロボットのケースにおける投資回収シミュレーション(税なし、税あり)

5. 反対意見・限界の検討

ロボット課税には、主に3つの反対意見がある。

  • 海外移転リスク: これは国内企業が国際競争で不利になる(中立性の侵害)という重大なリスク。国際的な協調(G7やOECDなど)の場で議論し、企業が国内外どこでも公平かつ中立的に負担する国際的な課税ルールを定めることが必須である。
  • 投資抑制で競争力低下: 課税対象を超過利潤に限定し、一般的な研究開発への優遇措置を組み合わせることで、投資意欲の急激な低下を防ぐ。
  • 測定困難: 理想は超過利潤の追求だが、測定困難であれば、初期段階では簡素性を優先し、稼働時間や台数といった指標を試行的に用いるなど、社会的便益を高める方法を選ぶ。

6. 政策オプションと私案

ロボット課税に関する政策オプションを以下の3案に分類し、評価する。

  • 代替案A(ロボット消費税): 簡素だが、最も投資意欲を削ぎ、死重の損失を生む。
  • 代替案B(超過利潤課税): 中立性を守りながら公平性を追求できる、バランスの取れた案。
  • 代替案C(無課税・減税): 効率性は最大化するが、格差拡大への対応が弱い。

私は「中立性と公平性の両立」を目指す「代替案B」を提案する。具体的な政策案は以下の3点である。

  • 使途: 税収の全額を、「デジタル人材育成のための再教育支援プログラム」と、職を失った人への「一時的な生活移行支援給付」に充てる。
  • 対象: AIを含む自動化資産が生み出した付加価値の増加分(超過利潤に相当)に課税する。
  • 税率: 労働者への社会保険料負担の軽減分をまかなえるよう、試験的に低税率(例:付加価値増加分の5%程度)で導入し、段階的に調整する。

7. 結論

「ロボットに課税すべきか」に対し、超過利潤に限定した「条件付き賛成」の立場を私は取った。これは技術革新(中立性)を妨げず、恩恵を分かち合う(公平性)ための道筋である。税収を未来へ労働者への投資とし、国際的な協調を通じて中立性を確保することが、持続可能な社会の実現に貢献につながる。

参考文献

  1. 内閣府 経済財政諮問会議 (2024), 「経済財政運営と改革の基本方針 2024」, https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2024/decision0621.html (2025年10月19日).
  2. 林 宏昭 (2019), 『日本の税制と財政』, 中央経済社

中国における「AI国力」について

小米(Xiaomi)のAIエコシステムを事例として

近年、人工知能(AI)は世界の経済・社会構造を大きく変えつつある。特に中国では、AI技術を国家戦略の中心に位置づけ、「新質生産力」の形成を進めている。その中で注目されるのが、中国の代表的テクノロジー企業である小米(Xiaomi)のAIエコシステムである。本稿では、小米の事例を通して、中国におけるAI国力の現状とその社会・経済的意義を考察する。

小米はスマートフォンメーカーとして知られているが、近年は「AIoT(AI+IoT)」戦略を推進している。AIを中心に据え、家庭内のスマートデバイス、ウェアラブル端末、車載システムなどを統合し、生活全体を連携させる「全屋智能」構想を展開している。AI音声アシスタント「小愛同学(Xiao Ai)」は、音声認識・自然言語処理・機械学習技術を活用し、数億台のデバイスを接続している(Zhao C,2025)。このようなAI技術の社会実装は、単なる製品開発にとどまらず、中国のAI応用力の高さを象徴しているといえる。

小米のAIエコシステムの拡大は、中国社会にさまざまな影響を与えている。第一に、AI技術を活用したスマート家電やIoT機器の普及が、生活の利便性を大幅に向上させた。第二に、AI関連産業の発展が新たな雇用やサービス産業を生み出し、経済成長を支えている。清華大学の『中国人工知能産業発展報告2024』によると、中国のAI市場規模は年々拡大しており、AI技術はスマート製造、医療、教育、エネルギーなど多様な分野で応用が進んでいる(清華大学, 2024)。こうした背景には、政府の強力な支援と企業の研究開発投資がある。

もっとも、中国のAI国力には課題も存在する。データのプライバシー保護、アルゴリズムの透明性、倫理的問題などが社会的議論の対象となっている。小米は自社開発チップ「澎湃(Surge)」シリーズを通じて技術自立を目指している。今後は、単にAIを利用する段階から、「AIを創造する国」への進化が求められる。

小米のAIエコシステムは、中国のAI国力を象徴する例である。AI技術を生活、産業、社会全体に浸透させることで、中国は国際的な競争力を高めつつある。今後は、技術的課題を克服し、より持続可能で人間中心のAI社会を実現できるかが鍵となる。AIを国家発展の動力とする中国の歩みは、世界のAI競争時代において重要な位置を占める。

参考論文:

Zhao C. The Evolutionary Revolution of Smart Home Systems Based on AI+ IoT[C]//Proceedings of the 2nd Guangdong-Hong Kong-Macao Greater Bay Area International Conference on Digital Economy and Artificial Intelligence. 2025: 1174-1179.

清華大学人工知能国際治理研究院(AIGI).[中国人工知能産業発展報告2024].

中国のAI国力について

 中国では、AIが国家戦略の核心として位置付けられ、「新一代人工知能開発計画」などの政策のもとで、技術開発と産業応用を急速に拡大している。AIを製造、エネルギー、医療、金融など多岐にわたる分野に導入し、経済のデジタル化と新産業の育成を進めることで、世界的な競争に参入している。しかし、その急速な発展の裏では、データの品質・共有性の不足、開放性などの弱さといった課題も指摘される。

 上海交通大学の『人工智能+”行业发展蓝皮书』(2025年)は、中国のAI産業が国家主導の下で急速に発展する一方、構造的課題を抱える理由を示している。中国では政府がAIを「国家競争力の中核」と位置づけ、資金・データ・政策を集中投下することで大規模モデルの開発や社会実装を短期間で実現した。しかし、研究資源が政府主導で分配されるため、基礎理論研究や独創的な発想が育ちにくいという課題がある。また、データ利用や研究環境が政治的規制に依存しており、国際的なオープンデータ共有や学術交流が制限されることも、技術革新の柔軟性を損ねている。

 これに対し、MERICS報告書(2025年7月)によると、アメリカはOpenAIやGoogleなどの民間企業が主導し、自由競争と大学・研究機関との連携によって技術革新を推進している。また、米スタンフォード大学の「人間中心のAI研究所(HAI)」が発表した『2025 AI インデックスレポート』によると、アメリカと両国の民間投資額では依然として大きな差があり、2024年時点では、米国が約1,091億ドル、中国が約93億ドルにとどまっていると報告されている。アメリカ政府は「AI Bill of Rights」などの枠組みを通じて倫理と透明性を重視し、研究の多様性と開放性が高く、過度な規制を避けつつ自律的な発展を支援している。

 以上のことから、中国のAI産業は国家主導で急速に発展しているが、その発展は国際的な開放性や倫理ガバナンスの整備などが追いついていない点が課題である。今後、中国が持続的な技術革新を実現するためには、政府の主導力を保ちつつ、基礎研究や国際連携を促進する柔軟な制度設計が求められる。

文字数:847

参考文献:

上海交通大学行研院(2025)『“人工智能+”行业发展蓝皮书(Artificial Intelligence + Industry Development Blue Book)』

Wendy Chang, Rebecca Arcesati, and Antonia Hmaidi. China’s Drive Toward Self-Reliance in Artificial Intelligence: From Chips to Large Language Models. MERICS Report, Mercator Institute for China Studies (MERICS), July 2025.

Stanford University Human-Centered Artificial Intelligence (HAI). (2025). AI Index Report 2025. Stanford University.

日本のAI国力について

米スタンフォード大学が調査したAI国力ランキングにおいては、我が国は2021年まで世界で4位であったが、2022年にインドに抜かれ5位へ、2023年においては9位へと大きく後退している。2022年にChatGPTが登場する前までは高い国力を示していたが、生成AIが世界的なブームに沸くと、その順位を一気に落としてしまったといえる。

 AI国力は様々な分野で定量評価が行われ、その合計数値で順位が決まる仕組となっている。2023年に順位を上げてきたUAE、韓国、フランスといった各国と比べて、日本は教育や多様性、世論といった分野で大きく劣後する結果となっている。加えて、研究開発やAIスタートアップへの公募投資額、人材への投資額についてもUAEと比べて大きく見劣りする結果となっている。

 日本は今後、政府、民間が一体となってAIに対する積極的な投資を行い、AI人材を増やしていく必要があると考える。サスティナビリティに関して、政府、民間が一丸となって取り組む風土が漸く出来上がりつつあるように、AIについても将来の長期的なロードマップを作り上げたうえで、中期的に取り組んでいくことを明確化し、1年ごとに進捗状況を明らかとしてうえで、その成長度合いを具現化していくプロセスを構築していかなければならない段階にきていると判断すべきである。

 AIの人材育成については一朝一夕ではなしえず、また他国から借りてくるといったことも現実的ではないため、幼少期から成人に至るまでの教育課程において、どのような教育を行い、人材を育成していくかという国家戦略が今後、問われていくことになると予想される。

 このようなAI人材の育成が全国的に進められていくということから、AIに基づくビジネス支援については国のみならず地方行政団体も積極的に関与していく必要があると考える。地方へも財源を与え、活発な投資を後押しする仕組を構築する必要があり、地域の金融機関についても役割を再定義する必要があると考える。官民一体となる仕組が地方から芽生えれば、順位に一喜一憂することなく、我が国のAI国力は盤石なものになると確信する。

 (出所)日経クロステック 2025年9月12日 中田敦

     「日本の「Ai国力」がわずか2年で4位から9位に転落、https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/03079/091100019

日本におけるAI国力について

1. はじめに

AIは、国家経済・安全保障・社会制度に影響を与える戦略技術であり、国力の一部として位置づけられる。日本では2025年に「AI法」が施行、政府主導のAI戦略が本格化したが、AI国力は政策だけでなく、民間企業の実装力や国民のAIリテラシーにも左右される。特に基幹産業である製造業では、AI活用の成否が国力に直結する。

2. 参考資料の要約

ダイキン工業では、AI人材育成と現場実装に取り組んでいる(東洋経済オンライン、2025年)。製造現場の「暗黙知」をAIでデータ化し、遠隔支援や設計開発に活用することで競争力を高めている。また、社内に情報技術大学を設立し、若手社員を2年間教育に専念させAI人材を育成している。

一方、米国企業ではAIを製造工程に組み込み、品質管理や予測保守に活用している事例(JBpress、2025年)があり、中国では国家主導でロボット開発が進み、AIを活用した自動化が急速に進展している(朝日新聞GLOBE+、2025年)。

3. 自分の考察

ダイキンの事例は、AI国力の形成において民間企業の役割が重要であることを示す。特に、現場の知見をAIに取り込む「社会実装力」は、日本の製造業が持つ強みを活かす方向性として有効だ。しかし、こうした取り組みは一部の先進企業に限られ、全国的に広がっていない。

他国との比較では、米国はスタートアップとの連携やデータ活用が進んでおり、AIを業務プロセスの中核に据えている。中国は国家主導でAI産業を育成し、製造現場へのロボット導入が進んでいる。日本は技術力では一定の水準にあるが、制度整備や人材育成、社会実装の面で出遅れている。

また、国民のAIリテラシーの低さも懸念材料である。日本の学校教育におけるAI活用率は55カ国中54位と極めて低く、AIを授業で使った教員の割合は小中学校で17%前後に留まり、国際平均を大きく下回る(朝日新聞デジタル、2025年)。これは、将来的なAI人材の育成において深刻な懸念である。

4. 結論

AI国力を高めるには、政府戦略だけでなく、民間企業の実装力と国民のAIリテラシー向上が不可欠である。具体的には、①企業による現場主導の活用、②教育現場での導入促進、③国民向けのリテラシー啓発、④地域格差を考慮した支援策が求められる。AIは国家の未来を左右する技術であり、社会全体での理解と活用がAI国力を支える基盤となる。

参考資料

AI国力

あなたの母国における「AI国力」について論じなさい。

中国のAIは、見ながら見まねから始まって、独自の強みを持つ世界で特色と影響力があるまで成長した。中国AI大規模言語モデル(例えばDeepSeek)は急速に発展しているが、計算資源の不足、高品質なデータの欠如、核心アルゴリズムの革新が課題である。

羅智泉氏(2025年4月7日)は「AIの発展現状と応用展望」をテーマに講義を行った。中国のAI大モデルは急速に進化しているが、高いエネルギー消費型の発展は持続不可能である。大モデルの導入にはコストを考慮すべきで、特定分野に特化した中小規模のモデルが有望な新たな方向性である。世界的に見て、AIの分野横断的な応用には大きな可能性がある。さらに、AIのグローバルな動向と先端研究、産業高度化を牽引するAI応用例、そしてAIがもたらす影響と将来トレンドについて言及。特に、通信、教育、医療分野におけるAIの応用例を重点的に紹介した。

DeepSeekは数学とプログラミングに特化した「技術専門家」として、その圧倒的なコスト性能とオープンソース戦略で強みを発揮する。一方、ChatGPTは「万能型」として汎用性と創造性、多様な機能で差別化しているが、その分コストが高いという特徴がある。用途に応じて両者を使い分けることが効果的である。

中国AIの技術発展に楽観的である。各産業向けの大規模モデルには、エネルギー消費の大きさや「モデル忘失」といった課題があるが、ネットワーク最適化、大規模モデル、数理計画ソルバーを基盤とした、多様で広範かつ総合的な研究開発プラットフォームの構築を提案している。